「久野さん、だよな」
「………」
ちいさく頷く。
「おれのクラスや友達にもあの人のファンがいるよ。詳しくないおれだってけっこう知ってる曲があるよ。今は同じクラスにいるかもしれないし、向こうも、あんたを気に入ってるんだろうけど。…久野史都は国民的アイドルグループのひとりで、ファンがたくさんいて、仲が良いメンバーがいて、それを大切にしてる。有栖川はあの人の一番にはなれないよ」
わたしだけじゃない。
みんな、そう思っている。
アイドルはそう在るべきだと。ふみともそれを理解っている。
「おれはあんたのことが一番だよ」
「穂くんにそんなふうに想ってもらえるほど、誠実じゃない。わたしから頼んだのに、本当にごめんなさい」
別れて、ふみとが卒業したら、ひとりになったわたしはどうなるのかな。
そういう不安はある。だからって甘えちゃいけなかった。
「有栖川が望んでたからじゃないよ。本当に、あんたのピアノを弾いてから、いつもあんたがおれの真ん中にいた。だからおれなら、叶えられるのに」
いままでその条件で付き合ってきたけど、誰かの一番にちゃんとなれたのは、はじめてな気がする。
叶えてもらった。
わたしもおなじぶんだけ、返したかった。
「でも有栖川が一番にしてほしいのはあの人なんだな」
「…なれなくても、いい」
「それでもいいんだな。それくらい好きなんだ、あの人のこと」
もういいと思えたのは、一番にしてくれた人と出会えたからかもしれない。なんて、さすがにそうは言えないけれど、きっとそう。
ひとりぼっちにはならない。
ちゃんとくれた気持ちがあったから。
「淋しくなったらいつでもきてよ」
手が離れてく。
「…けっきょくおれたちの間にも、あんたとふみとさんとの間にもピアノがある」
「あ……」
「宿命だと思って、あきらめて、返り咲けよ。楽しみにしてるから!」
その言葉に何度も何度も頷いた。
わたしにまたピアノをくれて、ありがとう。
穂くん、ごめんね。



