ぎゅうっと左手を優しいちからでにぎられる。
「アリスはうちらのことまで考えてくれてる。もっと自分本位になっちゃえばいいのに」
「や、充分自分本位だよ。寧音や穂くんにはむかしからそういうピアニストだったって言われたもん」
「えー。ふたりともわかってないなあ。アリスはね、史都のことになると史都本位になっちゃうんだよ。だって今一番近くにいるのは絶対にアリスなわけで、向こうはアリスにべたぼれなんだよ?うちだったら絶対に、芸能人なんてやめてよって、うちだけ見てよって、我慢ならなくて言っちゃう。そう言ったって誰も文句言えないよ。好きとか恋って、そういうものじゃん」
いや、たぶん、そういう状況になってもあっこは言えないと思うんだけど。
だけど、わたしを、なぐさめようとしてくれているのが伝わってくる。
「つまりアリスの願望は何ひとつおかしなことじゃないの」
「…っ」
「おかしくない。ただ好きなだけ。一番にしてもらいたいなんてあたりまえでしょ。叶えてもらいたいに決まってる。それを押しつけようとしないで、史都のことを考えてるアリスは、えらいよ。だけど、ほんとうに、それでいいの?」
天秤が、ぐらりと揺れた。
「史都と、アリス。自分たちのこれからを、ちゃんと話したほうがいい。きっとこのままじゃアリスは、けっきょく、自分を一番に優先してくれる人と出会っても史都のことはわすれられなくてくるしくなっちゃうよ」
穂くん。
告白、うれしかった。
むかしから知っていてくれて、わたしのピアノを好きでいてくれたのもうれしかった。
リハビリのきっかけをくれたのもうれしかった。
すきになりたかった。ちゃんとすきだと思っていた。安心できる場所だった。
それでもわたしの真ん中に居座るふみとを、いつもうまく無視できなかった。



