「いろいろ話してくれたのに今こんなこと聞くのは違うかもしれないけど………アリスは史都が好き?」
途中から何も飲まずに真剣に話を聞いてくれていたあっこ。
穂くんの顔が浮かんでくる。
「小さい頃、ふみとのピアノを聴いたことがあって。あっこに見せてもらったライブ映像を見て、すぐに同じ人だってわかった。ずっと変わらない優しい音。丁寧で、力強いピアノ。それだけだったのに、まさか同じクラスになるなんて」
「史都はアリスのことが好きだよ」
「…どうしても一番好きになってもらいたいの。わたしがピアノを弾こうが弾かないが、ちゃんと見て、一緒にいてくれる人が良いの。もう、だれかに淋しくさせられるのは嫌。おかしくなる自分も嫌。だから、そういう恋がしたいの」
天秤が不本意に傾かないように。
どんなに励まされても、大切にしてくれているような瞳を向けられても、そっちにはいけない。
「だからふみとのことは、選べない。帰る場所があって、何より大切にするべき存在たちがいて、がんばっていることがあるふみとに…ふさわしくいられないから。わたしの願望に付き合わせられないよ」
好き、はコントロールができるもの。
このひとをすきになりたいと思ったらなれるもの。
そうやって恋をしてきた。
「…わかった」
ふみとの大ファンなあっこのこと、嫌な気持ちにさせたかもしれない。
謝ろうと口を開くと、涙を浮かべた目を細めた。
「アリスにとっての一番は史都なんだってことがわかったよ」
予測していないせりふだった。



