世界でいちばん 不本意な「好き」



「だけど、なんか、自分で言うのもはずかしいんだけど、わたしにはピアノの才能がすごくあったみたいで、絶対音感もあって、曲への理解とかも、自然にできちゃって。…お母さんもお父さんもまわりの人もたくさん期待してくれるようになった。お姉ちゃんも。だけどわたしは時々その期待たちが嫌になっちゃったりして。学校以外ピアノしかやらせてもらえなくて友達もいなかったから、そういう話もお姉ちゃんがいつも聞いてくれてた。聞いてくれたというよりは察してくれたというか…とにかく、お姉ちゃんだけが、唯一の味方で、甘えられる人だったの」


お姉ちゃん。大好きな、美夜花(みやか)ちゃん。


「だけど実は嫌われてたんだよね。まあ、そうだよね。後から生まれてきたくせに、散々後ろ追いかけてきたと思ったら追い越してきたら、嫌だよね。でも、そう言われた時、もう何もかも要らなくなった。うんざりだった。ピアノの才能より友達がほしかったし、わたし自身を見てもらいたかった。お菓子だって食べたかったし、猫や犬に触ってみたかった。ピアノじゃない話をお母さんたちとしてみたかった」


窮屈で、退屈で、だけどわたしにはピアノしかなかった。

美夜花ちゃんもそうだった。
お母さんもお父さんも。


「もう、頭が、おかしくなっちゃってて。心の中はぐちゃぐちゃで、叶わないことばっかり考えて勝手に傷ついて…じゃあもう、ピアノ、やめようって。やめたいって言ったらとんでもなく叱られて、ピアノしかない部屋に閉じ込められたりして……だから、弾けなくなればいいんだと思って、指を、切ったんだよね。全部切っちゃいたかったんだけど、痛すぎて試しにやったくすり指だけで泣き叫んじゃった。すぐ病院で手術したからくっついたんだよ。お医者さんってすごいよね」

「笑わないでいいよ。ちゃんと話して」


あの頃はだれもわたしの話を聞いてくれなかったのに。

突然の話を、3人は真剣に聞いてくれた。