「嘘ついてるだろ」
「────、ぇ」
簡単に騙されてくれない。
それでも認められない。
穂くんがいたから、リハビリを決心できた。毎日たのしいと思えるようになった。楽に、なった。
手放したくないよ。
だって抱えた気持ちが叶うことはない。
「ふみとさんのこと、覚えてないなんて嘘だよな」
たぶん穂くんはぜんぶ気づいていて、それでいて、いくつかのわたしの嘘の中からそれを選んだ。
「有栖川月湖は神の耳を持ってる」
「…その言われかたいやなのに」
「少しくらい意地悪言ってもいいだろ。その神の耳があのひとの音に惹かれてる姿をおれは見かけてるんだよ。絶対にわすれてるはずがないんだ」
「覚えてるって言ったら、ふみと、大袈裟によろこんでしつこくあの頃のこと話してきそうだから、嘘言ったの」
「有栖川は自分本位だな」
「それ寧音にも言われちゃった」
「傷つかなくていーよ。褒め言葉だから。佐原寧音やおれにとっては、そんな有栖川月湖から生まれる音が良いんだよ」
なにそれ。ダメなわたしのこと、全肯定。
甘やかされている。親友にも彼氏にも。
ちがうんだよ。
ふみとがわたしの言葉でよろこんだら、わたしがうれしくなるから困るの。
あの頃とはちがうわたしを見つけられるのがこわくて、嘘をついてるだけなの。
自分本位どころじゃない。
せめてあの頃みたいに、自分の音にも他の誰かの音にも、誠実になれたらいいのに。
寧音や穂くんが思ってくれている“良い”わたしではないんだよ。



