世界でいちばん 不本意な「好き」



全員がそうとは言えないけれど、わたしは、そうかも。だから何にも気づけなかったし、都合の良い日常をつくっていた。

今もそう。
他人を傷つけるような嘘をついて、愛情をもらって、傷口に塗っている。



「今日はふみとさんに会えてうれしかったです。これからも活動楽しみにしてます」

「えーありがとう穂くん」

「これ以上いると佐原寧音が噛みついてきそうなのでおれはこれで」

「噛まないし!」

「また会おうね穂くん」


穂くんに手を振りながらわたしの服を引っ張ってくる活動休止中の9つ年上のアイドル。どういう立ち位置でこういうことをしてくるのかな。


「有栖川はこっち。おれのこと送って」


怒ってる…かも。表情や声色ではわからない。



「ふみと、離して」


なぜか声が、震えてしまった。


「離す、けど、……帰ってきて」


ぎゅうっとちからを込められて、離される。

寧音に言われなくてもわかっていた。さっきからわたしたちが取り繕えてないこと。


「寮に帰るよ。また明日ね」


そういうことじゃないこともわかっているけど。

本当に答えたら、応えられないのは、帰る場所が別にあるふみとのほうだ。



「おどろいた。活動休止してることもその理由も知ってたけど、まさか有栖川とあの久野ふみとがクラスメイトなんて」


ふたりで歩きはじめてすぐに穂くんは話し出した。怒っては、なさそう。再会したときは意地悪だったのに。


「しかも、仲が良い」

「仲良くないよ。ああ言えばこう言うし。なんでも言い返してくるの。うんざりだよ」

「ふーん」


気づかれてはいけない気持ちを、抱えている。

大事にしたいのはもっとべつのものなのに、不本意だ。