世界でいちばん 不本意な「好き」



ファミレスを出る前にトイレに寄ると寧音も入ってきた。

並んで手を洗っている時までずっとでっかいため息を聞かされて、さすがに、何、と聞くしかなくなった。


「あんたバカなの?」

「なんなの急に」


鏡越しで睨まれる。美女の迫力がすごい。こわい。


「この小1時間、ほぼふみとさんとしかしゃべってなかったからね。彼氏ほったらかしで。いや宮坂穂のことはそれでもいいけど私のことまでほったらかしにしてひどい。なんであんたたちのいちゃいちゃ仲良しな姿を見なきゃならないのよ。1時間ムダにしたんですけど」

「ちょっと。いちゃいちゃも仲良しもしてないんだけど」

「してたよ。極めつけは間接キス。なにあれ。私とはしないくせに!」

「間接キスって。そんなの意識してないし」

「とにかく、自分が思ってるより隠せてないと思ったほうがいいよ。宮坂穂は鈍感じゃない。良い性格してるから見てみぬフリもしてくれないでしょ。まあ月湖の古参信者だから突っかかってくることはないと思うけど」


…たしかに穂くんとあまり話してない。今日、デートの約束だったのに。


「わたし、ひどくない………?」

「まあ、不誠実ではあるかな」

「ふせいじつ…」

「でも、自分本位なのはもともとじゃん」

「もともと…」

「ピアニストなんて自分本位でしょう」


だから、ふみととも寧音ともお姉ちゃんともお母さんとも噛み合わないのか、と、腑に落ちた。