ヒロサラを取り出して時計の針が待ち合わせの時間を示すのを待つ。
友達がいたほうが楽しいから馴染めるようにがんばったけど、こうしてひとりで過ごす時間も短ければ好きだったりする。
「アリス、また彼氏待ってんの?」
それなのに…この隣の異物は今日も邪魔をしてくるらしい。
「なあヒロサラのどのシーンが好き?あ、当てていい?」
「…べつにないです。そんなに好きな作品じゃないですもん」
「え、そうなの?てっきりアリスは「アンチヒーロー、期待してる」って鏡子さんに言われて「おれだって…」って抱き寄せるシーンが好きかなって思ったんだけどなー」
そのシーンが一番好きじゃない…。
面倒くさくて思わずため息が漏れる。当てる、とか、そういうの好きじゃない。当てられたくなくて構えちゃう。
「好きじゃないのになんで読んでんの?もうけっこう読み込んでるよな、それ」
くたびれてきた文庫本を指さしてくる。
何度も繰り返し読んだけど、これでも大事にしてるんだよ。
「汐くん…彼氏との、思い出の本だから」
あの日手に取った本が汐くんの好きなヒロサラだったから話しかけてくれた。
これがなかったら巡り合えていなかったかもしれない。
「へえ。彼氏のこと、大好きだな」
「……」
「どこが好き?」
このひとは、どんなふうに26歳になったんだろう。
わたしの勝手なイメージだけど、芸能界ってたいへんそう。
気を遣って、自由はあまりなくて、狭くて広い世界で制限されながら活動して、ただファンのためにがんばる。猫をかぶったり、嘘偽りで固められていたり、仮初の関係だってありそうなのに……このひとは、自然体な気がする。
きれいなものをたくさん見てきたひとみたいな言葉を使う。



