世界でいちばん 不本意な「好き」



制服なんて役で何度も着てるんだろうし気にするならもっとべつのことを気にするべきでしょ。


「こちらは宮坂穂くんです。彼氏です」

「ふーーーーん」


うわ、わざとらしく不機嫌になった!何その態度、やめてほしい。他人事だと思って横で笑ってるショーマのこと叩きたい!


「宮坂です。あの、お久しぶりです」


ぎくり、と心臓が軋んだ。


「やっぱり、会ったことあるよね。覚えててくれてうれしい」



ほらね、やっぱりわざと。

ふみとにはいつだって余裕がある。うれしいことには素直によろこんで、わたしのことを想っていると言うくせに彼氏を紹介しても、さほど気にしてなんかないんだ。


それなのにわたしは、くやしいくらい、あのときのドビュッシーの『月の光』が星の瞬きのメロディのように浮かんでくる。

わすれられない。

たぶん、わたしは、こういうところが、ピアニストなんだと思う。



「大きくなったね。……3人とも」



今より少しあどけない、芸能界に入る前のふみと。

指先も、生み出す音の本質も、何も変わらずに、もう一度わたしの目の前に、突然現れた。


「わたしは、覚えてないよ」

「まあそうだよね。アリスたちは小さかったもんね」

「そうだよ9つも上のオジサンなんて覚えてるわけないじゃん」

「ちょっと待ってオジサンはひどくね?オジサン……アイドルがオジサン……」


オジサンは冗談なのにまた気にしてる。だからほかのこと気にしてよってば。

それなのに、わたしのひと言を気にするふみとが、くすぐったくなる。


いやだなあ。

関わりたくないなあ。