世界でいちばん 不本意な「好き」



いいから行こう、と逃げるように歩き出そうとしたけれど、穂くんの性格上、そう簡単にはあきらめてくれないみたい。


「そんなことないだろ。とりあえず、佐原寧音はあんたの親友ぶったファンじゃん」

「…は!!? なんで月湖のファンの宮坂(みやさか)穂がいるの!?月湖、こっちきて!わたし以外と仲良くしないで」


穂くんからぺりっと引き剥がされて、寧音にぎゅっと抱きしめられる。今にも噛みつきそうな態度に、わたしがピアノをやっていたころは毎日だれに対してもこうだったなあと、懐かしくなる。


「相変わらずの独占欲だな…」

「月湖、もしかして、宮坂穂と付き合ってるの?反対なんだけど!だってずるい!」


返事をする前に話が進んでいく。ずるいって。中学生のころ、先に彼氏をつくったのは寧音だったのに。


「もー離してよ。穂くんも困ってるでしょ」

「いや、ずっと仲良くしてるんだなってなんか安心した」

「……穂くん、ほんとに、べつに、寧音から絶交だって言われてるもん。だから友達じゃないから」

「絶交って。ははっ、かわいー」


え、そこで、ふみとが出てくる?

にくいくらい心地の良い低音の笑い声がわたしたちをあまりにも勝手にほどいていく。



かわいいって。

何、言ってんの。人の彼氏の前で、何も気にしてないみたいに、自然に、言う。


「ちょっ、…と、いつまで笑ってるの!」

「いや、だって、絶交って言われたの、気にしててかわいいの、けっこうツボった、かわいい、本当に」

「ちょっと、もう、かんべんしてよ!ふみと!」

「そっちがかんべんしろって」


ああもう、関わると、乱される。困る。

止めなかったショーマをにらむしかなかった。