世界でいちばん 不本意な「好き」



「おはよう」


そう声をかけられなくても足音でわかるようになっていたみたい。


「おはよう、ふみと」

「今日のホームルーム何するんだろうねー」


週の真ん中のホームルームは少し長めに設定されていて、学校行事が近ければその準備に、テストが近ければ自習時間になる。


「しばらく何もないからいつもみたいに自由時間じゃないかな」

「ねー」


最近は自由時間になることが多くて、わたしは勉強、ふみとは隣で楽譜を書いている。

どんな曲をつくっているのかは知らないけれど、たまに口ずさんでいるメロディーはちょっと爽やかで甘い。

ちなみにピカロが2か月前に出したふみと作曲の新曲は意外にもロック調だった。



「席替えしまーす」



励くん先生はくじびきの箱を教壇に置くとのんきな声でそう言った。


いま、なんて言った…?


クラスは3年に進級してから初めての席替えににぎやかになる。

身体にちからが入らない。

ただみんながぞろぞろと教壇へ向かっていく姿を眺めていた。


気まぐれにも程がある。突然すぎる。
頭も行動も気持ちも追いつかない。

この席じゃなかったら、ふみとと、こんなにも関わる機会はなかったと思う。ふみとがわたしを気にかけてくれるようになることもなかったと思う。


励くんと目が合う。彼は見透かしたような視線をただこちらに向けるだけだった。



「アリス、行こ」


隣のふみとがつぶやく。

いやだと、叫び出したかった。


だけどわたしにそんなこと言う資格はなくて。


「…言われなくても行くもん」


振り絞ったちからで立ち上がるしかなかった。