世界でいちばん 不本意な「好き」



「史都がななめうしろにいるって思うだけで疲れる……」


お昼休み、中庭でお弁当を広げているとあっこが本当に疲労感いっぱいの声でつぶやいた。ここ数日はずっと泣きそうな顔をしている。


「だってあっこ、肩めっちゃちから入ってるもん。うしろからみてるとちょっとおもしろいよ」

「うー。アリスはよく平気だね!隣の席!けっこう話しかけられてるし…!」

「や、べつにそんなことないよ」

「そんなことあるよー。うちが隣の席で教科書見せてって言われたら発狂して逃げる、絶対」


これは…一般人に向ける感情じゃないな。

理解はできないけど、ファンならそうなるのかも。わたしだったら、汐くんが同じクラスにいたら幸せすぎるけどなあ。そういうものじゃないみたい。


「みんなも戸惑ってるよね。まさかあのピカロが同級生になるなんて」

「うち生で芸能人見たの初めて。それが史都って……うれしいけどもう恥ずかしいこと絶対できないよー」

「自然にはいられないよね」


みんなと仲良く、というあのひとの目標は叶いそうにない。

手の届かない人。雲の上の人。隣の席との間には分厚いくて高い壁がある。



「…ま、そのうち居心地悪くなって来なくなるでしょ」



クラスのあの様子じゃ近いうちにそうなる気がする。だって、ねえ。

楽しくないでしょ、いちゃもんつけられながら学校生活送るの。


きっとちやほやされてきたひとだから、堪えられないんじゃないかな。