世界でいちばん 不本意な「好き」



文句を言いつつ、渡した缶のプルタブをすかさず開けて口をつけている。

甘い香りがわたしにも届いて、ココアのざらりとした食感をなんとなく感じた。


「あの、穂くん、このまえのこと、なんだけど…」



理由がなきゃだめならくれよ
って、言ってくれたよね。


「汐くんとわたしが別れた原因は、知ってるんだよね…?」


それなのにどうして…って正直思ってる。再会した時怒っていたし。

すると彼は静かにこちらを見て、立ち上がって、向かい合わせの状態でしゃがみ込んだ。




「だれかの一番になりたいってやつだよな」


そう。わたしは、そうしてくれるって約束してもらえないといやだよ。


「再会した時に言ったよな。だれかの一番になりたいなんて傲慢なことは孤独なやつしか願ったりしない。だけどあんたはそうじゃないんじゃねえのって。ただ構ってほしくてひとりぼっちなフリしてるだけで本当は一番じゃなくたって生きてけるやつだって」

「あの時はお水かけてごめん、だけど、ちょっとひどくない…?」

「でも本当のことだろ。あんたはちゃんと、自分のことを一番に思ってくれてる人たちを知ってる」


ぎゅうっと指を内側に折る。

くすり指は少しだけ。それが、心の奥を抉る。


「…お母さんもお父さんも今のわたしには興味ないよ。連絡もとってないし、ろくに鍵盤を押せない指になっちゃったし」

「親だけじゃねーよ。あんたに憧れて、あんたを目指してきたやつらがあの業界にはたくさんいる。それはただピアニストとしてだけじゃない。舞台でのたたずまいも、努力の仕方も、自信も危うさも表現する豊かさも、おれたちは解ってた」


だけど、それは。