世界でいちばん 不本意な「好き」



ひらりと手を振ると彼は眉を寄せて「ビョーイン行けよ」と口パクする。

リスケしたもん。

それより真剣に仕事をしたほうがいいと思う。たぶんもうすぐ上がる時間だろうから、陰で待ってよう。そう思っていたら店内の音楽が変わった。


この曲、ピカロだ。

ふみとが主演していた『はなきみ』の主題歌。映画館で聴いたから覚えてる。



ふみとが笑っている。ふてくされている。残念そうな顔。楽しそうな声。頼られてうれしそうな柔らかい表情。

アリス、と呼ぶ声より、ツキコって呼んでくるときのほうが、ちょっと緊張している。だったら呼ばなきゃいいのにね。


好きだよって伝えてくれた。

素直に聞くことが、できなかった。



ふみとのことが好きだけれど、隣の席にいても、向かいの寮に住んでいても、手をつないでも、言葉を交わしても、遠いひとだと思ってしまう。

きっとふみとがもとの居場所へ帰っていけば、わたしもふみとのいない日常に戻ってく。


淋しい思いも、ひとりになることも、一番になれないことも、わたしにとっては、とてもこわいこと。

それを自分がよく知ってしまっているから。



「で。散々人のこと避けといてどーしたんだよ」

「う……バイト、オツカレサマデシタ」


いじわるに言い返す言葉もなく、誤魔化すみたいに、買っておいたホットココアを渡す。冷めてないはず。


「穂くん、意外と甘党だもんね」

「意外とは余計だろ」


近くの公園のベンチに並んで座る。もうすっかり、月が出た空。