「普段クールなくせに、宝物見つけたみたいに家まできて。ピアノなんてよくわからない僕に一生懸命、アリスのピアノのすばらしさと、弾き終わったあとのアリスの可愛い笑顔のこと、話してくれた」
泣きそうになって、奥歯を噛む。
──── そしてみんなにとっては特別な存在で、きっとピカロにとってはなくてはならない替えのきかない存在で、音彩先生にとっては思い出の人で、家族にとっては大切なひとりで…って、わたしの知らないどこかで、久野ふみとはたくさん生きている。
わたしももしかしたら、そうなれていたのかもしれない。
「穂はアリスを一番に大切にする。必ず」
どの口が言うんだって感じだよね。と汐くんは申し訳なさそうに言うから首を横に振る。
きっと一番を望むわたしのほうが異物だ。
「くやしいけどね」
「…わたし、穂くんに、会いたい」
「うん。たぶん、バイト先にいると思う」
「ありがとう、汐くん。教えてくれて…穂くんはなんだか、自分からは言ってくれなさそうだから」
「アリス、もう穂のことけっこうわかってきてるね」
そうなのかな。
そうだったら、傷つけたり、しないかな。
穂くんは駅前の携帯ショップで働いている。
病院に遅れることを伝えてそこに向かう。ちょうどお客さまを対応中で、真剣に説明をする彼は、普段の無愛想な様子とは少しちがった。
しばらく見ていると視線を感じたのかこちらを見て、わたしを見つけるなり目をまるくした。



