汐くんの勉強の調子は良さそうで、ほっとした。とはいえ穂くんから「あいつは大丈夫」と聞いてはいたのだけれど。
「穂から聞いた。アリスに告白したって」
やっぱりその話だった。
「あいつ、おもしろくて。僕がアリスと付き合いはじめたときにアリスの話をしたら「それ、おれの好きなやつなんだけど」って言うんだよ。それで、穂が小さい頃から話していたピアニストのアリスガワツキコがアリスと一致したんだ」
「は、ぇ…?」
「もちろん穂の好きな人だったからって一歩も退く気はなかったけど。アリスを穂に紹介した時はあまりに緊張してるから笑うの堪えたけど」
知らない話がどんどん出てくる。
汐くん、穂くんみたいに慣れた人には、優しいだけじゃない笑みをこぼしたりするひとだったんだ。
「別れてから、しばらくして。アリスに会いたいって言い出して。だからバイト先に行ったんだ」
「そう、だった、んだ」
「ごめん。アリスの話は、少し知ってるんだ。アリスと出会う前に穂から聞いた話でしかないんだけどね」
「や、ううん、あやまることじゃ…」
そう言いつつ、目線は左手に向かってしまう。
汐くんは、わたしのこと、どんな子だと思って話を聞いたんだろう。みんなわたしのことを、どう思うのだろう。
わたしがしたのは自傷行為だ。
外傷もそうだったけど、お母さんたちは、わたしのこと、いわゆる精神科に向かわせたこともあった。
「僕と穂は小学生の頃からの知り合いなんだけど」
親友、を知り合い、と謙遜する汐くんの性格が好きだった。
「初めてアリスの存在を知った時のあいつのことは今でも覚えてるよ」
わたしの“存在”。



