世界でいちばん 不本意な「好き」



うわ。後者な可能性、すごいある。だって汐くんと穂くんって本当に仲良しで。付き合ってたころ、汐くん、だいたいのお話の内容が穂くんだったもん。

そのたびうらやましくなって、疎ましくていやだったなあ、この人のこと。

そんな人がなんで。



「理由がなきゃだめならくれよ」


寄せられた眉と、低い声。


「付き合ってよ、おれと。彼氏なら付き添ってもおかしくねーだろ」



予想外の言葉に心臓も思考も病院へ進む足もしばらく停止した。

いま、なんと?

何言ってんの、と負けじと眉を寄せて見つめ返す。



「意外と鈍いんだな」

「えっと…わたしのこと、すき、…ってこと?」

「まあ、そうなんじゃねーの。じゃなきゃ付き添いなんかしねーだろさすがに」


いや、だから、理由を聞いたのだけど、まさかそんなふうに思われているなんてこれっぽっちも思わないよ!

勘違いしちゃだめだって思ったばかりなのに…信じられない。


「とりあえず早く行こーよ」

「あ、うん、そうだね」


そのあとは汐くんが勉強をがんばっている話や病院の先生の口癖がおもしろい話とか、そんな他愛のない話を、戸惑いを隠すみたいにお互いにした。

内心ではもう、どうしようって。

だって穂くんはわたしに好きなひとがいることを知らない。


ふみとのことは、知らないから。



帰りは途中まで一緒に帰ったけれど、送ってくれようとした穂くんを、バイトを言い訳に断った。

逃げちゃった…。