世界でいちばん 不本意な「好き」



待ち合わせ場所に行くと、穂くんは声をかける前にこちらを見た。

彼はほとんどいつもわたしより先に待っている。携帯も本も何も見ずに、イヤホンもしないで、ただ待っている。


「なんか今日遅くね?」

「ちゃんと逃げずに来たんだからいいでしょ」


ああ、もう、自分の性格がいやだ。寧音とショーマとのこと、それにふみとのことも、ぜんぶ穂くんには関係ないのに、つっけんどんな態度をとってしまった。

なのに彼はちょっと笑って、「思ってねーよ」とつぶやく。


「何かあったかと思ったわ。無事に来てよかった」

「……」

「行こ」


病院まで歩いて15分。逃げ出さないか見張るための待ち合わせだと思っていた。心配なんてされていると思っていなかった。びっくりして、そして、少しだけ、泣きたくなった。


「…おまたせ」

「おー」


優しくされると、
すぐに寄りかかりたくなる。

今までずっとそうだったし、そうしてきた。


二の舞にはなりたくないな。
勘違いしちゃだめだ。


「穂くん、次からはひとりで行くよ」

「は、なんで?」

「なんでって、穂くん、付き添ってくれる理由ないじゃない。他校生だし受験もあるのに時間もらっちゃってなんか…へんじゃん」


見張りが理由じゃないなら、ねえ。わたしが自分で自分の手を傷つけたことは界隈ではちょっとした騒ぎになっていたからきっと知っているんだと思う。それで同情されてる、とか?

それとも汐くんにひどいことを言ったこと、まだ怒っていて文句を言う隙を狙ってるとか…。