「あっこちゃんや葉歌ちゃんや他の子に告白されても素直にアリスのことが好きだって言っちゃだめだよって言っといたよ」
「えぇ…」
「まあふみとさんも鈍感じゃないからわかってたけど、あんたの気持ちもふみとさんの気持ちもまわりにバレたら大変そうだよね」
ふみとみたいなプレミアムな人を好きになるからだよ、って言われてるみたい。
「わたしはべつに…ふみととどうにかなりたいなんて思ってないよ」
好きだけれど、
ふみとを選ぶのは、こわい。
きっとふみとはわたしを選んではくれない。
「…ふーん。じゃあ、ふみとさんが卒業して、また芸能界に戻って、そのうち知らない美女と熱愛報道とか出ちゃってもいいんだ?手の届かない存在になってってもいいんだ?」
わたしの左手を優しく包み込んでくれたぬくもりを思い出して、心臓が、ぎゅうっとせまくなった。
体温を感じたって、優しさをたくさんもらったって、手が届いた気もしない。
「わたしは…だれかの一番になりたいから」
何にも譲れない。何にも負けない。何よりも優先したいと、思われたい。
わたしだけを見てほしい。
ほかには何も映してほしくないの。
寧音とショーマは目を合わせてあからさまにため息をつく。
理解されなくたっていいもん。
「わたし、病院行くから。また明日ね」
そう言って席を立ち上がる。逃げるわけじゃないよ。本当に時間なの。待ち合わせ場所に来ているであろう穂くんに怒られちゃう。
「え、病院って、何…?」
さっきまでのふてぶてしい態度がうそみたいに眉を寄せて戸惑いを帯びた表情をする寧音。
「…指のリハビリ」
「……っ」
「最近行ってるの。また弾けるようになるかは、ぜんぜん、わからないけれど」
だからもう心配しないで。
わたしのことは、ほっといて。



