世界でいちばん 不本意な「好き」




「そう言われたの?」

「………」



俯くと、しゃがみ込んで、覗き込まれる。優しい目をしたこのひとに、縋りたくなる。


「痛い思いしても決めてやったことなら、自分でそう思ったらだめだ。アリスがかわいそうだよ」


直接命に関わるような怪我じゃなかった。
だけどあのころのわたしにとっては、自分で自分をころすのと同じことだった。

それほど大切だったもの。

お母さんたちはわたしの行動を見て、ピアノを弾かなくなったわたしを、弾けなくなったわたしを、いないものとして扱った。


ごはんが出てこなくなった。
リビングにいるのに、お母さんたちが眠るタイミングで電気を消されるようになった。
話しかけてこない。

お姉ちゃんは、何も言ってはくれなかった。


わたしも、何も言えなかった。



「…ピアノを弾かなきゃ、あいしてもらえない…っ」


だけどピアノを弾くと、大切な人を傷つける。



どうしたらよかったの?



「…さわっていい?」


いつも拒むからか、そう聴かれる。
縋るように、自分からふみとの手を迎えにいく。

わたしの左手。

ゆっくりと包まれていく光景に、一番に大切にされていると、錯覚してしまいそうになる。


ただの願ってはいけない願望だ。



「アリスは、ひとりじゃない」

「……っ」

「愛されてない子でもない」

「…ふみと、」

「俺は、すごく好きだよ」


そんなこと、いわないで。

その手をぎゅうっと握りしめる。まだ、くすり指は、うまく曲がらないけれど、ふみとのあたたかい体温は伝わってくる。


「……わたしのこと、いちばんにしてくれないくせに」


ああ、これは、言いたくなかったよ。