世界でいちばん 不本意な「好き」



わたしの一番はお姉ちゃんだった。


お姉ちゃんが一緒にやろうと言ってくれるだけで、ここにいていいんだと、わたしの居場所なんだと思えた。

がんばろうって言ってくれるだけで真っ直ぐになれた。

自慢だと言ってもらえて、期待されることは、こわいことじゃなくなった。



『本当は、くるしい。もう月湖の音、聴きたくない。こわい。だってどんどん迫ってくる…ううん、もう、とっくに越されてる。お母さんもお父さんも、みんな、月湖の音しか見てくれない。わたしのことなんて誰も見てない。わたし、もう、月湖の音を聴くと、頭がいたくて、涙がでてきて、息が、うまくできないよ…っ』


音彩ちゃんに泣きながらそう訴えている姿を見たとき、どうしたらいいのかわからなくなった。


今まで信じてきたものが目の前で崩れてく。

味方だと思っていた人は、わたしの音でくるしんでいた。

お姉ちゃんもみんなと同じ。
わたしのピアノしか見てない。


「……そう思ったら悲しくて。当てつけみたいに、歓喜の歌を舞台で弾いた。弾いて、何もかもが嫌になって、弾いた後、指をね、全部切ろうとしたの。もう要らないなって思って。やってみたら痛くて1本も切れなかったけど」



自嘲的な笑みがもれる。

左手のくすり指。
刃物を通したときの痛みと恐怖を、覚えてる。


結局、絶望に浸っただけ。
何もできなかった。



「こわかったよな」

「……は……」

「こわかっただろ」



勝手に信じて、優しいうそに甘えて。
ピアノがないわたしの価値を、わたし自身もわからなくて。


「……きもちわるくないの?頭、おかしいって思わないの?」


自分で自分の指を、なんて。