幼いころから、耳に入る音が、すべて気になった。
ピアノをはじめると周りの音たちすべてにドレミが聴こえるようになった。
歌詞よりも先にドレミが浮かぶ。
音に気をとられ学校では注意力が散漫しているとよく母が言われていた。
それくらい、一番、わたしの近くには音が存在していた。
今わたしの一番近くで音を奏でるそのひとは、やっぱり優しい音を、とても楽しそうに生み出す。
心地がよくて。うらやましくて。
どうしてこうなれなかったんだろうと、泣きたくなって。
そんな気持ちですら包み込むようなふみとのピアノが、いとしい。
わたしは、きっと本当に、ふみとに恋をしちゃったんだ。
だけど今このひとは、わたしのためだけにピアノを弾いてるわけじゃない。
これから先も、ずっとそう。
きらきら光る夜空の星と同じ。
絶対にこの手は届かない。
「みんな大絶賛だったな。きらきら星以外も披露することになるとは思わなかった」
夕暮れにかかる校舎をぼんやり眺めながら並んで歩いていたけれど、わたしは、少し、話したくなって、おもむろに足を止めた。
「みんなによろこんでもらえてよかった。…ふみと、ありがとう」
「俺は何もしてないよ」
「してくれたよ。いつも、してくれてる」
みんなにするように、わたしのことも笑わせようとしてくれる。気にかけてくれる。心配してくれて、大丈夫だと笑ってくれる。
それは気づけばわたしにとって、すごく、特別なことになっていた。



