世界でいちばん 不本意な「好き」


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3年ぶりに病院へ行くと、担当のお医者さんはものすごくおどろいて、それからうれしそうに受け入れてくれた。


わたしの左手のくすり指は、ちからがうまく入らない。ぐーは作れないし、物を持つのも避けてしまう。傷は、かすかな線が残っただけ。

神経は傷ついていない。それ奇跡のような傷だったと、あのころお医者さんに言われたっけ。



バイトのシフトを少しだけ減らした。

リハビリに通うことを優先した。


また弾けるようになったら、寧音、よろこぶかな。



「なんか最近いいことあった?」

「…え、なんで」

「なんとなく、話し声が明るい気がして」


久しぶりに学童に顔を出すとふみとに話しかけられた。学童に来るのもそうだったけど、ふみとと話すのも、すごく久しぶりのように感じた。



「あ……うん。あのね、」

「アリスー!ふみとー!ちょっときてー!」


リハビリをはじめたこと、話そうと思ったらミカちゃんに呼ばれた。

ふたりで向かうとほかの子たちも集まっていて、腕を引かれる。


「アリスは久しぶりだから知らないよね!最近学童にピアノがきたんだよ!」


え。


連れて行かれた場所にアップライトピアノが置かれていた。すでにだれかがいたずらをしたのか、クレヨンでお花の絵が描かれている。



「ふみと、舞台の上でお歌もかっこよかったけどピアノがすっごくじょうずだったー!」

「ママが持ってるビデオでもみたよ!ピアノひいてるふみと、かっこいい!」


あらま、人気だ。しばらく来ない間にすっかりその座は奪われてしまったかもしれない。