発表会の会場で会うたびにわたしをじいっと見てくるあの黒い瞳。
ちゃんと覚えていたことを白状すると「うそつけ」とあまり信じてもらえなかった。
「あんたに憧れてたやつ、たくさんいるよ。知ってんだろ?」
「まあ…」
「おれもまさか自分がピアノはじめたくなるなんて思ってなかったし。親の付き添いで行ったらあんたとあんたのお姉さんが連弾してて、そっから」
「そうだったんだ。今もピアノは続けてるんだよね?相当弾き込んでる演奏だったよ。でも、あの日のわたしの演奏を真似するのはちょっと、いじわるすぎませんか」
最低な曲。
だけど案外悪い演奏じゃなかったんだ。
きみが弾いてくれて、そう思えた。
「何度も何度もあんたがピアノを弾く姿は見てきたけど、おれにとっては、あの日のあんたが一番良かった」
やっぱりわたしは、なにがなんでも、ピアノを捨てちゃいけなかったのかもしれない。
「もう一度聴きたい。今日はそう言いたかっただけ」
ピアノがあってこそのわたし、を、自分が認めてあげなくちゃならなかったのかもしれない。
「………リハビリ、してみようかな」
左手のくすり指。
あきらめて、投げ出して、当てつけでした自分の行動でいろんな人を傷つけた。
それでもたったひとりから言われたあの台詞を、あの頃のわたしは受け入れることができなかった。
「病院まで見送るくらいならしてやってもいーけど」
「えー」
「ちゃんとサボらず行くか見張りな」
だけど、もう一度帰ってこいと、言いに来てくれた人がいた。
だれかの心に残れていたこと。
たったそれだけですくわれてしまうほど、わたしは、ピアノを愛してた。



