世界でいちばん 不本意な「好き」



黒い髪を眺めながら後を歩く。

どこに向かっているのかはわからないけれど、駅方面だということはわかる。


これはあまり気づきたくなかったことなんだけど、たぶん穂くんとわたしは汐くんに紹介された時が初対面ではないんだと思う。

それに彼の口ぶりからすると、ピアノ関係で出会っていそうな気配がして。だからよけいに関わりたくないのに。


覚えてないなんて言ったら加算されそう…。


駅前の広場はよく待ち合わせ場所に使われている。わたしは久しぶりに来た。だからそこにピアノが置かれているなんて知らなかった。


「最近置かれるようになったんだよ」


驚いているわたしに気づいたのか穂くんがつぶやく。街角ピアノは子どもたちが踊るように触っている。



「なあ、一緒に弾かない?」



わたしのことが嫌であろう穂くんから、そんな誘いを受けるとは思わなかった。


「あ、ごめん、わたし、指が動かなくて、弾けないの……」

「じゃあ聴いてて。次弾くから」


そう言って子どもの後ろに並び出したから、似合わなくて、ちょっとおもしろい。

一体なんなんだろう。

少し離れた場所で待つ。


目つきが悪くて、愛想もない。
ツンとした低い声。
汐くんは自分とは正反対な彼を、一番の友達だと言っていた。だからわたしは、このひとのことが、あまり好きじゃなかった。


子どもを椅子から下ろしてあげている姿を見て、やっぱり、汐くんの一番になれる人だよなあと、負けたような気持ちになる。