世界でいちばん 不本意な「好き」



「汐くんは?」

「オレも(すい)と同じクラスだったよ」

「穂くんと?よかったね、汐くんのクラスも楽しそう」


穂くんは汐くんと仲良しで前に一度会ったこともある。不良っぽい感じで汐くんとは雰囲気が違うんだけど、そういう人とも分け隔てなく仲良くできるところ、汐くんって良いなあって思う。


「あと学級委員をやることになったよ。投票制で…」


はずかしそう、ちょっと困ったふうにつぶやく。

わたしも、同じ学校に汐くんがいたら投票しちゃうかも。頼れるおにいさんって感じなんだもん。


「学級委員…たいへんそうだね」


わたしも去年やったからわかる。放課後も残ったりしたもん。


「無理なくがんばろうと思う」

「…うん。でも、いそがしくても、わたしのこと構ってね?」

「もちろん。アリス以上に大事なものないよ」


汐くんの足がふいに止まる。

不思議に思って呼びかけると、彼のくちびるがわたしのそれに重なった。


まぶたをとじて受け入れる。

どこにも行けないように、繋いでいた手をぎゅっと握った。



久野ふみとが青春に憧れるように、わたしにも、憧れるものがあった。

夢のようなそれは、なかなか叶えてくれるひとがいなくて、諦めかけていたときに汐くんと出会った。


誰かに一番に想われること。

わたしのこと、優先して。大切にして。どこにいても誰といても考えてほしい。


汐くんはきっとそうしてくれるひと。

やっと出会えた、優しいひとなんだ。