世界でいちばん 不本意な「好き」




「まああんたも淋しいやつなんだろーけどな」


わたしは、穂くんとはじめて会ったときから、大した会話もしていないのに見透かしてくるかのようなふたえの瞳が得意じゃなかった。


雨で濡れたカラスの羽根のような色の髪とおそろいの瞳。

静かで芯のある声も、あまり聴いていたくない。


やわらかい雰囲気の汐くんとはぜんぜんちがくて、それなのにすごく仲が良いふたりが、ちょっとだけ、いつかの寧音とわたしに見えたりなんかもしちゃって…。



「だれかの一番になりたい、なんて傲慢なこと、孤独なやつしか願ったりしない」


責めるような視線。

わざとらしくひとさし指の先を向けてくる。


「だけどあんたはそうじゃないんじゃねえの?ただ構ってほしくてひとりぼっちなフリしてるだけ。本当は一番じゃなくたって生きてける。だってあんたは───」



穂くんが飲んでいたブレンドティーと氷が入ったグラスを、気づけば握っていて、中身を彼に零した。

ほんとうに濡れた黒髪の隙間で、穂くんはどうしてか満足した顔で笑った。


「あ、ご、ごめ…」


少し、脅かそうとしただけ。本気でかけようとしたわけじゃなかった。

咄嗟に出たのが左手だったのが悪い。


彼の手が伸びてきて触れてくる。グラスが割れる音がした。


「有栖川。左手、ダイジョーブ?」

「……っ」


その手は冷たいんだろうと勝手に思っていたけれど、ちゃんとそこには体温があった。