世界でいちばん 不本意な「好き」



高3からじゃ、入ってもすぐ引退だ。軽音部は自由に活動しているからそういうのはないのかもしれないけど…それにしたって、今からじゃ、どの部に入っても邪魔でしょう。


「青春といえば部活だろ?音楽好きだからやりたくてさー」


あー…前にあっこが、久野史都はピアノが弾けるんだって言ってたっけ。一緒に見させられた特番でも弾いていた。

音楽なんて、ピアノなんて、何がいいんだか。



「わたし、そろそろ行くから」


これ以上話しているとまた言いすぎちゃいそう。

関わらないほうがいい。本来、関わることなんてない人種なんだから。


「そっか。放課後デート楽しんできてね」

「……」

「また明日」


ひらひらと手を振られる。

スクリーンで見ていた端正な顔が、また明日、とわたしに向かってつぶやく。…なんて、へんなの。


手を振り返すことも、また明日を返すこともなく背を向けて教室を出た。

芸能人で、アイドルで、たくさんの人から人気があって…。


それなのに、まだ目標があって、なにかに憧れていて、夢を見ているように語る。


それって欲深いよ。

──── あのひと、苦手だ。



「アリスはクラス替えどうだった?」


迎えに来てくれた汐くんは今日も爽やかでかっこいい。車道側を歩いてくれることも手を繋ぐこともすごく自然にやってくれるの。

何かを聞いてくるとき、語尾がやわらかくなるところが好き。優しい人柄が伝わってくる。


「紗依と同じクラスだったよ!あと1年生の時に同じクラスで仲良かったあっことも同じクラスだった」

「紗依ちゃんって一番仲良い子だったよね。よかった、楽しそうなクラスで」


前に話したことを覚えてくれてるところも、よかったって思ってくれるところも好き。