世界でいちばん 不本意な「好き」



貸してもらったお母さんのスウェットパジャマを脱ごうとしたら「そのままでいいよ」と手を引かれた。

顔くらい洗わせてくれ。

寝起きでもしっかりかっこいいプレミアムな顔と一緒にしないでもらいたい。


そう訴えても無駄で自分の労力を使うだけだから言わないでおけど、本当に困る。ふみともスウェットパジャマで、なんてことない意図しないままにできあがったおそろいにどきどきしてしまうのも、とても困る。



ふみとが暮らした街で、生まれてはじめて、日暮れよりも朝焼けのほうがきれいなことに気づいた。


青と、黄色と、白。

柔い光がお昼間の太陽と同じだなんて、ちょっと疑わしいくらい。

薄いそれに照らされた背中は、見ているだけで肩甲骨のところがでこぼこしているのがわかって、確かめてみたくなる。


だけど、触れない。そんな勇気どこにもない。

こうしてふみとはわたしの前を進んでいって、いずれまた元の場所にもどってく。


そうわかっているのに────



「アリス、もうすぐ海があるんだよ」


振り向いてほしいと少しだけ願うと、その通りにこっちを振り返ってくれる。

なんでだろう。ずるいなあ。

もしかしてこころのなか、読めてる?それでいて困らせてくるのなら、ほんとうにひどい。


「…うみ、好きなの?」

「好きだよー」

「散歩も、朝焼けも、好きでしょう」

「え、なんで知ってるの?」


なんで、だって。そんなのわかるよ。ふみとのなかにはたくさんの好きなものがある。