世界でいちばん 不本意な「好き」



ふみとのお母さんと眠った。

畳の部屋で眠るのは初めてだったけれど、とても寝心地が良くて、寮を出たら畳の部屋がある家に住もうと思った。


その日の夢のなかでわたしはピアノを弾いていた。

となりには姉が座っていて、強烈に、妬ましいと思った。自分のことが。


いつも何かを羨んで、妬んで、傷つけたいような、守りたいような、そんな痛みが襲ってくる。

まるで弱い自分と常に対峙していて、目を背けたり、逃げ出したり、しているような気分だ。


お母さんも、お父さんも、お姉ちゃんも、寧音も、わたしでさえも、誰も彼も、わたしのこと、ピアノを通してしか見られなくなっていた。

それをただ、捨てたかっただけだったのに。



「…湖、月湖」


目を開けると視界いっぱいに端正な顔が映って叫び出しそうになった。

そんな口もとを広い手のひらが塞ぎもう片方の手で「シーッ」と指を立てる。いや、今のは、絶対にふみとが悪いと思う。



「まだ母さんたち寝てるから」


寝てるから、じゃないし。


「起こすならもっとふつうに起こしてよ…」

「ふつうに起こしてるじゃんね」


この人にはもっと自分のプレミアムさを自覚してほしい。

今までのアイドル生活、どうやって生きてきたんだろう。きっとこの思わせぶりと人たらしと無自覚さに振り回された人たちはたくさんいるんじゃないかな。


「散歩しよ」


ふみとは、散歩が好きだ。

いやだと言っても強引に連れてかれるだけだろうから、息をつきながらお布団から出た。