世界でいちばん 不本意な「好き」



目が合ったお母さんにとりあえずお辞儀して名前をつぶやくと、背の低い色白の女性は目をシロクロさせた。

そりゃそうだよね。突然来たんだもん。誰って感じだよね。


「もしかしてふみとがこの前話してくれたアリスちゃん?すごく美人な子ね」

「そーそー。とりあえずあがるね。有栖川月湖も、どーぞあがって」


何も言葉を発せないまま背中に手を添えられ、歩くしかない。

お母さんに話したって何を?


誰かのご家族に会うなんて寧音くらいしかいなかったから緊張してうまく喋られない。


「よそ様のお嬢さんに学校休ませて何してんのあんたは」


久野ふみとのお母さまは都会っぽい雰囲気はなく、どちらかといえば親しみやすい空気を感じられた。

口調は豪快で、ふみとはあんたって呼ばれてるらしい。



「俺はピカロだからね」


そう、このアンチヒーローは、だいたいいつも勝手だ。

だけど、いやになるくらい、甘えたくなる。



「調子いいこと言って。ねえアリスちゃん」

「あっ……でも、あの、…たすかることも、あります」


困ることが大半だけれど。
いやなんだけど、でも。

まるで褒めるような言いかたになってしまった。


それを聴いたふみとのお母さんは、うれしそうに笑った。



久野家はお父さまが腰を痛めるまで定食屋を営んでいたらしい。

朝なのにお母さまが作ってくれたアジのひらきと炊き込みご飯と煮物は、本当に絶品だった。お豆腐とわかめのお味噌汁までおいしい。


「アリスちゃんお魚食べるの上手だねえ。育ちが良いのかしら?どんなご家庭なの?」


うっ…答えにくいことを。


「母さん、そんなことよりピカロの新曲聴いてくれた?」


うわ、ふみとに気を遣わせてしまった。


でもお母さんに聞かれて、ごちそうになっている身で、答えないわけにいかない。