世界でいちばん 不本意な「好き」



どこに行くのか聞いたら、この1週間開催されている世界のチョコレートが楽しめる博物館だった。


可愛らしいチョイスをするなあと思ってそう新田くんに伝えて、すぐに失敗したと思った。

だってここ、去年もやっていて、ふみとがテレビで紹介していたらしい。


それで新田くんも去年行ってすごく楽しかったみたいで今日わたしにもその楽しさを味わってほしいんだとのこと。

その気持ちはうれしいけれど、どこにいてもふみとの話題になる。

わすれたいのに気が休まらない。


新田くんはその後もふみとの話をたくさんした。本当に好きなんだなあと、こんなに思われているあのひとのこと、ちょっとうらやましい気持ちになった。


あっこもそう。ふみとの発言を熱心に書き留めて、保管用と観賞用に2冊ずつ同じ雑誌を買って、何度も何度もCDを聴き、何度も何度も円盤を見る。



そうやってる人が、この世界にはあとどれくらいいるんだろう。

わたしなんてたまたま隣の席になっただけ。

ふみとが高校へ再登校することを決めていなければ関わることなんてありえなかった。


わたしはふみとの良さも何も知らないまま彼のことをただのアイドルだと思って、ふみとはわたしの存在すら知らない。

そういう世界線だっておかしくないわけで。


むしろ今の状況のほうがずっとおかしいのかもしれない。



「アリスさん、ホットチョコレートです。いちごトッピングで良かったですよね?」

「ありがとうー」

「こちらこそ、席取りありがとうございます。飲みましょ」


新田くんは、ゆるやかに笑うひとだ。

口調も柔らかくて、話を聞くと年の離れた妹さんがいるらしく、その影響かもしれないと思った。


仕事はさっさと済ますというより、じっくり丁寧にやるタイプ。

常連さんのたばこの品番や好きなパンを覚えていて、ごく自然に立ち回れる。コンビニ店員さんとしてはかなり優秀。