世界でいちばん 不本意な「好き」



新田くんとの待ち合わせ場所に着くととなりにいた女の子たちが携帯を覗きながら「ピカロの新曲、作曲したの史都だって!」と騒いでいた。


え、作曲?とおどろいてすぐに検索してしまった。


いやいや待って。なに検索してるの。どうでもいいじゃない。

それに休みの日まで久野ふみとの話を聞くなんて最悪だ。



だいたい、にきびがあるところにわざわざキスしなくたっていいでしょ。せっかく隠していたのに。


そもそもどうしてキス?
好きって、本当に本当にそう思ってるの?

それであればどうしてわたしなんか……ふみとには、なにも良いところなんて見せられていないと思う。


あれ以来まともに話してない。
というより、一方的に避けてる。


紗依にはふみとのことが好きかもしれない、なんて言ったけれど、やっぱりぜったいにむずかしい。

あっこのことを考えるとまずわたしがふみととどうこうなるなんてダメだし、ふみとは、こうやって町中でも話題にされる芸能人だ。


たくさんのファンがいて、大事なことがやまほどあるのが、とてもよく伝わってくる。

ふみとはたぶんわたしとちがって、両手いっぱいまでは満遍なく、とことん大事にしていけるひと。


きっとランキングは好きじゃない。

自分が一番何が好きかはどうでも良くて、好きなものは全部好きでいたい。そう思ってる。


そういうふみとのこと、きらい。


でもきっとそうなんだろうなあってわかってしまうのは、そういうこと、だからだとも思う。

だから蓋をして。



「アリスさん!」


わたしのことをいちばん好きになってくれそうな人のもとにいく。


そのほうが幸せになれるはず。
なにかに夢中になっている人は、もういやだ。