世界でいちばん 不本意な「好き」



たぶんだけど久野史都はアイドル業を仕事として捉えてない。本当に、日常のなかの出来事として思っているんじゃないかな。

そういうひとだと思う。


「ふみとがアイドルをがんばってるから、今があるんだね」

「え、」

「高校生活と両立してたら、復学する必要はなかったわけでしょ」


9歳年上の、芸能界にいる人。

そんなひとと隣の席になる確率、きっと神様の誤作動だ。


「あのときの俺、天才じゃん」

「や、天才って言いかたはちょっとちがうんじゃ…」

「すげー!欲張らずにひとつひとつがんばったから、ごほうびにアリスに会えた」

「っ、……その、言いかた…」

「遅れてきた青春も悪くないな」


理由を見つけてポジティブに考える。そういうところ、すごいなって思う。

わたしにはできないけど、でも、どうしたって、理由を探さなくても、出会えてよかったって思うよ。



「なんかふたり、かゆい空気を感じる……」


下駄箱で鉢合わせたショーマがじとりとした視線を向け、何かを疑うような口調でつぶやいた。

ほんとうに、妙に勘が良いところがめんどくさい。


「とくにアリス!ふみとはいつもだからもうどーでも良くなりつつあるけど、アリス、おまえ、もしかして意識…モガッ」


なんでわたしの周りにはこうもデリカシーのないやつが多いんだ!?

よけいなことを平気で言おうとするその口に両手を被せる。


「何言ってんのショーマくん。アリスのことよくおこらせてるよね」


ふみとが眉をひそめる。

いや、気にしないにも程があるでしょ…ショーマ、今あきらかに変なこと言ってたのに。



「いやあいつ鈍感すぎね?」

「…ショーマうるさい」

「ふうん。本当にアリスは恋愛で苦労するな」


にやにやと見てくる。口に当てた手を離さなきゃよかったかもしれない。懲りない。

ショーマが言うなって感じだよね。