世界でいちばん 不本意な「好き」



万全の体調、とはいかなかったけれど昨日よりは食欲もあるし寒気もない。


「…え」


寮を出ると外にふみとが立っていた。


「おはよう」

「お、おはよう…なにしてるの?」


ベランダで会うことはあったけどこういう状況は初めてで言葉がしどろもどろになってしまう。


そんなわたしの様子なんておかまいなしに彼は近づいてきて、こっちに手が伸びてくる。

なにかと思ってその行き先を目で追えば、広い手のひらがわたしの前髪を通っておでこを包んだ。


「あ、よかった、熱下がったね」

「…っ、っ……」


なんの予告もなく与えられた心地の良い体温に、呼吸すらままならなくなる。

心臓が大きく動き出してくるしい。


このひとは…こっちの気も知らないで、なんて優しい顔で覗き込んでくるんだ。


「アリスのことだから熱が悪化してても無理すると思って待ち伏せしてたんだ」


待っててくれなんて頼んでない。心配してなんて頼んでない。


それでもしてくれる久野ふみとの性格が、うざったいのに、面倒なのに、くるしいのに、好きだと思う。

やっぱりこんなの認めたくなかった。


「は、離してよ!」


これ以上は、となにかの危険を感じて手を振り払いあわてて前髪を直す。

触るならせめて申告してほしい…突然は、ずるいよ。


「そういえば最近前髪おろしてるよな」


はっ。おでこのにきび、バレてないよね…?念のためちょっと手で押さえる。


「なんか少し幼くなる」

「え、似合わない…?」


前髪は分けたほうが似合うと自分では思ってるからいつもそうしてる。むしろ前髪を垂らしてるのはへんなんじゃないかな。ふみとがそう思っていたら、いやだなあ。