世界でいちばん 不本意な「好き」



思わずその顔から視線を外した。


「……もう弾けないってば」


言い返す言葉をしぼり出す。


「弾けないんじゃなくって弾かないんでしょ?いつまで逃げるの?」


けっきょく寧音といると、優しくされても、それがうれしくても、この話になってしまう。

仲良く学園祭の楽しかった出来事を話したり、恋の相談をするような友達にはなれない。


「月湖は何から逃げてるの?」

「……」


だって最初から、わたしたちは友達なんかじゃなかった。



「それは月湖を求めて追いかけてきてるんじゃないの?」

「寧音、もうお風呂入りたいから帰って」

「話がまだ終わってない!」

「話すことないってば!」


無理やり立たせてドアの外へと背中を押す。

切りたくても切れない、反発しあう、友達ではない寧音との関係。

追いかけてくるものたちの先頭は寧音だ。


「追いかけてくるなら…逃げつづける」

「そんなの、月湖の本当の心のなかは望んでない。私には解るの」



そんなこと思ってない。


もう二度とピアノは弾かないし、弾きたいとも思わない。

思っちゃいけない。


ドアを閉じる。

寧音だって逃げたい存在のうちのひとつ。


ふつうの友達になれない。

わたしたちの間にはずっと前からピアノしかない。

ピアノを切り離して成り立つことはない。


そうわかってるから、優しくしてもらっても、うれしくても、本当は、大好きでも……遠ざけることしかできないんだ。