世界でいちばん 不本意な「好き」



ずいっと渡された体温計を渋々脇に挟む。

わたし、寧音との約束、守れなかったのに。優しくしてもらう理由なんてもうないのに。


…敵わないなあ。



「寧音こそ、バンド練習、けっこうストレス溜まったんじゃない?」


一概には言えないけど、個人競技をするスポーツ選手が団体競技を苦手とする心理と良く似てると思う。

寧音もわたしもピアノは弾けるけど吹奏楽部とかバンドを組むとかそういうのには絶対に向いてない。


案の定、指摘すると途端に寧音はげっそりした表情を出して「明日で解放される…」と唸った。

日に日にやつれてってるなあとは思っていたんだ。


「朝昼放課後ぜんぶ使って練習してたもんね」

「誰かとずっと一緒とかきつすぎた…!しかもあのメンバー、みんな慣れ慣れしくってべたべたべたべた…冷たくしてもめげないし…」


とくにふみとね。恋心、大丈夫なのかな。



「あんたが私に頼めばって提案したんでしょ」


ぎくり。


「はは…ショーマから聞いた?」

「うん。私が集団行動苦手だって知ってんのにさいてー」

「だって、…ふみともいたし」



寧音ならって、
自己満足で、自己嫌悪したい考えかたしてる。



目の前に座る彼女から盛大なため息がこぼれる。

まるで文句のかたまりみたい。



「────…月湖が弾けばよかったのに」



いつもの意地悪で言ってるんじゃない。

眉間にしわを寄せ、まるで涙を耐えるような表情でつぶやかれたひと言に、左手がキリキリと痛み出す。