世界でいちばん 不本意な「好き」




「アリス!」


足はそこそこ速いほうなのに、いつも追いつかれる。

後ろから腕を掴まれる。振り向かなくても、その広い手のひらが久野ふみとのものだってわかった。



「なんでひとりになりたかったのに追いかけてくるの?イヤガラセにも程があるでしょ」


しかもその原因。今は顔も見たくないし声も聞きたくないのになんで来るかな。


「ひとりにさせたくないから追いかけてきた」


要らないことをしてくる。頼んでない。
拒んだつもりでもめげない。

あっこたちに弁解しないといけないじゃん。自分のプレミアムさを理解してって何度言ってもわかってくれない。


「…左手触らないで」

「あ、ごめん」


すでに何かに気づいているのか、素直に離れていく温度。

それがまた癪に障る。そうやって言うことを聞いてくれる時もあるならいつだってそうしてくれたらいいのに。


「せめてみんなの前でああいう話しないでくれる?」

「ふたりの時でも話す気ないなら変わらないだろ」


ああ言えばこう言う。わたしたちの関係は、知り合ってから数か月経っても進歩しない。

歩み寄りたいのか、反発したいのか。
わたしの気持ちはどこにあるんだろう。


「アリスが毎日楽しそうにしてたら俺だってこんなに口出さねーよ」

「毎日楽しいよ」

「でもたぶん、ピアノやってたころのほうが楽しいだろ」


探られている。当てられている。わたしの何かを、掴まれている。ふみとと話しているといつもそんな気分になる。