世界でいちばん 不本意な「好き」



なんで、楽しくお話できないんだろう。なんで、困るようなことを言うんだろう。


まるで海の真ん中に取り残されて溺れているみたい。

沖まで泳いでいきたいのに戻る場所もない。



物心ついたころから中学3年まで、わたしのすべてはピアノだった。

偉大な作曲者が生み出したメロディーで、時には自ら生み出した音を連ねて、世界をつくっていた。


これからもそれがつづいていくと疑いもせず信じていた。

周りのひとたちも、知らないひとたちでさえもわたしの音を愛してくれていると思っていた。



────「月湖なんていなければよかった」
そう言ったあのひとは今までどんな思いで一緒にいてくれたんだろう。


────「月湖の才能を愛してるわ」
そう言った人たちは、あのひとのこともわたしのことも何ひとつ見ていない。



気づいたときには、きれいなかたちをわすれていた。

歪んで、乱れて、傷んで、無様で……そんな音しか弾けていなかった自分も、それに気づかずにいた自分も周りのことも、もう全部捨てたいと思った。


すべてを手放す方法が、あれしか浮かばなかったんだ。


間違っていたことくらい今はなんとなくわかる。
だけどもう後戻りできない。

戻ってはいけない。


だから戻らなくても済むように、わたしなりに一生懸命だったんだよ。


へたくそに作り上げてきたそこにある溝に久野ふみとは侵入する。へたくそに積み上げたものを、久野ふみとは崩そうとする。

どうして放っておいてくれないの。