あの猫は近所のお家から迷い込んだ飼い猫だったらしい。
しっぽについていたリボンに住所が印字してあって判明した。
飼うことにならなくてよかった。
なんて、冷たい考えかな。
「アリス、最近いっそうバイト入れてること多いね」
カフェに来てくれた紗依とあっこ、それから甲斐くんのオーダーをとっていると痛いところを指摘された。
「暇だから入れてるだけだよ」
じつはふたりにも家族との関係を言えていない。
寮で暮らしている理由はひとり立ちしたいから、とか、バイトはただ単に世間勉強をしながらおこづかいがほしいからだ、とか。特待生もたまたまとれたってことにしている。
話す機会も必要もないと思って言っていないけれど、時々後ろめたいような気持ちになる。
「でもたしかにアリスとじっくり話せてないよね」
「ねー、さみしー」
う。身を縮めたい。
「なんか最近笑ったことあった?」
「え、笑ったこと?」
いつも笑っているつもりなんだけど…。
でもたぶん紗依はそういうことを聞きたいわけじゃない。
うーんと考えて、最近の自分を思い返す。バイトして、勉強して、もやもやしてばっかりな自分。
みんなと久しぶりに遊びたいな。楽しみたいな。
だって最後の学生生活だもん。
せっかくみんなと同じクラスになれて、本来なら、すごく楽しかったはず。今までだってそうだった。猫をかぶってることなんてわすれるくらい、しっかり楽しめていたんだ。
それを、久野ふみとが。
久野ふみとのせいで。
だけどこんな気持ち言えない。



