世界でいちばん 不本意な「好き」



たしかにこの空気はこの学園特有のものでもあって、入学したての頃はわたしもよく感じていた。

外部の人に慣れていないんだと思う。芸能人ってことでさらに戸惑っている感じ。


「あ、あく、圷、由佳子です、…よろしく…」


あっこなんてびっくりしすぎて名前しか言えてない。


順番がまわってきたから席を立つ。…そこの隣人、じっと見すぎ。

無視しよう。なんか、関わりたくない。


だって芸能人って。雲の上の存在じゃん。一緒に楽しくとか無理でしょ。

だいたいこのひと、けっこう年齢いってるよね。コスプレじゃん。…すっごいふつうに着こなしてるけど。それがまた芸能人って感じで、未知の生物、みたいだ。



「有栖川です。同じクラスになったことある人もない人も、高校最後の年、楽しく過ごそーね。よろしくお願いします」

「アリスーと同じクラスうれしー!」

「アリスと一緒なら楽しくなりそうっ」

「よろしくー」


声をかけてくれるクラスメイトに手を振り返す。
うん、楽しくなりそう。…隣の異物は置いといて。



「アリスって呼ばれてるんだ」


うわ…話しかけてきた。


「はい…」

「すげーかわいーね。あだ名いいなー」

「……」


かわいい、と言われてしまった。とてつもなく美しい顔で。

芸能人ってこわい。


「俺の名前ってあだ名つけにくいよなー」

「……」

「下の名前はなに?」

「や、有栖川って呼んでください」

「え、なんでよ。アリスでいいっしょ?」


席替えまだ!?すごい馴れ馴れしく話しかけてくるんだけど…なんなの…?こっちはきんちょうするってのに…!

あっこや紗依とは違って本当の本当に興味はないんだけど、それでも、芸能人なんて今まで一回も会ったことないし、急に目の前に現れられても困るよ。