世界でいちばん 不本意な「好き」



だめだ、自分の声がおかしい。冷たくて、ぶっきらぼうで、ふてぶてしくて、かっこ悪い。いっそう逃げたくなる。

なんでこんなに可愛くない態度をとってしまうんだろう。



「月湖、このまえの演奏会、聴きに来てくれてありがとうね。今度でいいから感想聞かせて」


甘栗色のセミロング。大人っぽいきれいめの服装に、優しい口調。

ピアノを弾くまあるい指先がわたしの頬をすっと撫でる。


「素敵だったよ」

「それだけ?あの日ちょっとだけ音にごっちゃった部分があるんだけど」

「音彩先生は上手だもん。気づかないよ、そんなの」


嘘。だけどそのにごりは、にごりなんかじゃなかった。姉妹で奏でてつくられた一種のシンコペーション。気にするようなものじゃなく、むしろ、ほんとうに素敵だった。

素直にそう言えないわたしのほうがおかしい。


「高3は授業がないから月湖に会えなくてさみしいの。また聴きに来てね」

「……うん」


わたしが音彩先生に弱いことを知っていて、わざとだ。頷くことしかできないまま、耐えられないとでも言うかのように音楽室を飛び出した。


音彩先生の指先と自分の指先を、どうしても比べてしまう。

姉妹の音を、どうしても妬ましく思ってしまう。

居心地が悪くなったのは、単なる格好のつかない八つ当たりだ。



うまく握れない左手。
うまく握れてしまう右手。

どうしたらくるしくなくなるのか、毎日考えている。


何も考えたくないよ。