世界でいちばん 不本意な「好き」



おそるおそる彼のほうをうかがうと、開けた口から「音彩、」とこぼれる。低くて、柔い声。

その瞬きの間だけで久野ふみとにとって音彩先生がただ再会した同級生とはちがっている気がした。


「びっ…くりしたあ。生徒が来ること自体めずらしいのに、月湖とふみとくんが一緒にいるなんて」


本当におどろいたようにつぶやき、それから小鳥の鳴き声のように笑う。

音彩先生はずっとそうで、おそらく久野ふみとがこの学校に通っていた頃から変わっていないんじゃないかな。



「月湖、元気にしてた?」


2年の授業以来久しぶりに顔を合わせた。


「あ、うん、元気」

「よかった。…ふみとくんは、学校慣れた?」


口ぶりから久野ふみとが復学していることは知っているみたいだった。

そりゃそうか。かなりのうわさになっているし、音彩先生はチウガクの教師でもある。


「おかげさまで……音彩、音楽の先生になってたんだ」

「そうなの。ふみとくんは、本当にアイドルになって、大人気だね」

「や、まだまだだよ」

「国民的アイドルグループのひとりがなに言ってるの」


音楽室の入り口と真ん中の距離で笑い合うふたり。


居心地が悪い。そう思うのは、真っ黒のピアノと五線譜の黒板のせい。きっとそうじゃなきゃおかしい。



「わたし、先に教室行ってるから」


逃げるように荷物をまとめる。


「え、俺も行くから待ってよ」

「いいよ。まだ授業まで時間あるから話してれば。感動の再会なんでしょ」