世界でいちばん 不本意な「好き」



お昼の時間、空き教室はふたりきりになりたいカップルたちの絶好の場所になる。

それをわすれて化学準備室に入ると「アリスが久野史都といる!」と中にいた同級生カップルに言われてしまった。他クラスだとまだ物めずらしく見えるらしい。


適当に笑いながら手を振って退散。

ほかにも地学室、教材室、美術室…と埋まっている教室を眺めてもうあきらめようと提案しかけたところで「音楽室は空いてそうだよ」と言われてしまった。



「いや?」


見透かすような言葉に思わず首を横に振る。


「べつに、しかたないし、いいよ」


好きじゃないだけで、授業があれば入れるんだから。

避けたいだけで、べつに大丈夫なんだから。



それでも入口で躊躇っていると、おもむろに手を差し伸べられた。


「こわい敵はいないよ」


なだめるような声色。


「……」


そんなこと思っていないのに、なぜかその手をとってしまった。

ぐっと引かれる。無理やりではなかったけれど、自然と足を動かすことができた。


存在を主張するグランドピアノ。
五線譜の黒板。

それらを中心にほかの楽器は今にも踊りだしそう。


「食べよ」

「あ、うん」


てっきりまたピアノの話をされるかと思ったけれどそんなこともなく彼は真ん中の席にお弁当箱を置いた。

その隣の席に座るとこっちに椅子を持ってきた。どうやらひとつの机で食べようとしているみたい。