世界でいちばん 不本意な「好き」



焦ってついに前の席を見ると、あっこが心配になるほど泣いていた。


「ふ…史都が、え、ほ…ホンモノ……?」


人が、感動やらなんやらであっけにとられた姿、初めて見たかもしれない。

核心をついたあっこに、彼がにこりと笑いかける。


それは彼女の携帯画面になっていた写真の表情とよく似ていた。


「俺のこと知ってるの?ありがとう。1年間だけだけどよろしくね。…あ、これハンカチ」


よろしくね、じゃないんですけど…‥。

ハンカチなんて使えるはずもなく、何かを訴えるかのように首を横に振る彼の大ファン。


教室に悲鳴が響いた。

とんでもないことが起きている。



「久野ふみとです。みんなおどろかせてごめんねー。じつは高2まではこの学園でずっとお世話になってて、校長先生がずっと休学にしてくれてたんだ。俺のことは気軽にふみとって呼んでください。あ、ちなみに芸名は漢字だけど本名は平仮名です。めずらしいっしょ~。芸名使ってることもこの学園に通うことも公表してないからナイショな?1年間だけだけどこのクラスで仲良く過ごせたらいいなって思ってます。よろしくー」


「……」

「ふみとって呼んでねー」

「……」


クラスみんなの自己紹介も、隣のこの男の時は教室中が大注目。


静かに…というよりかは扱い慣れない芸能人とやらをどう受け入れたらいいのかわからないような視線でみんなこいつを見ていたのに、当の本人はかなり軽い口調で、時折笑顔を見せながら言葉を発していた。

芸名、とか、……とてもみんなで仲良く、って空気じゃない。呼び捨てなんて絶対みんなできないよ。