どうしてかな。芸能人の久野史都のことはよく知らないのに、今ここにいる久野ふみとならやってのけちゃう気がするんだ。やっぱりしつこいからかな。


「アリスのこと、すきだな」


「…は!?」

「隣の席になったのが、アリスでよかった」


なんだ、そういう意味か。そりゃそうだ。


「アリス照れたの?顔赤い」


顔を覗き込まれ、思わず背ける。

言われなくてもわかってる。だから顔に熱が集まった気がした瞬間に手で覆ったのに、目ざとい。よく見てる。困る。


「ゆ、ゆうやけの所為だよ!」

「まだ空青いけど」


しかたないじゃん。

ふみとが、すきなんて言うからだよ。


びっくりしただけ。


恋の真似事ですらない。でも、口先じゃない。

すき、なんて、面と向かって真剣に言われて、つい勘違いしただけだ。



「…赤いチーク、塗ってるからだよ」


化粧は校則で禁止だもん。バレたら特待生が剥奪になるかもしれない。だから、うそ。


「そ」


へたくそな言い訳に気づいて、騙されたふりをするような優しい笑みが落ちてくる。


きっと追いかけたとしても、拾うことはできないんだろうな。

そんな気はないはずなのに、なぜか、そう思ってしまった。