世界でいちばん 不本意な「好き」



いつもあっけらかんとしていて、調子が良くて、へこたれなくて、明るくて。

だから、久野ふみとには悩みなんてない、悩まないひとなんだと思っていた。


そんなわけないじゃんね。
そんなひといるわけないのに、勝手に。



「…すごいことなんじゃないのかな」

「え?」

「あ、いや、そんなにくわしくないやつに言われてもって感じかもしれないけど…何年も芸能人してて、ドラマや映画に出て、それでしっかり周りのイメージを崩さずにやってきて。それって、生半可に仕事してたらできないことだと思う。イメージを守るのって本当に大変だよね。でも、ふみとはそれに応えてきた。だからみんなまた期待する。だれにでもできることじゃない気がするよ」



それにふみとは、自分のためじゃない。

ファンのため。周りのスタッフのため。そしてピカロのメンバーのために、やってきたんだと思う。

それくらいは、もうわかるよ。


「そもそも芸能人でアイドルで俳優でって、ほかのだれかじゃダメなことやってるもんね」


それなのに今目の前にいるのは、何の役でもキラキラした衣裳でもない、高校生の制服を着た26歳の久野ふみと。


これからわたしと学童で子どもの面倒を見て、あどけなく一緒に遊んだりする。

教室では隣の席で、今日なんて数学の時間、ちょっとうとうとしてたでしょ。


バイトが遅くなるときは迎えに来たりなんかする。

変装はちょっとへん。

しつこいくらい構ってくる、ただの同級生。



「でも、がんばってるのにそれでもそうやって悩んでたら、いつかやってみたい役ができるひとになれるんだろうね」


きっとそれまで、つづけるんでしょう。

大切なイメージを、守りながら覆すんでしょう。