世界でいちばん 不本意な「好き」




「恋愛ものに出るのいやなの?」


悩んだわりには、はっきり聞いてしまったと思う。

学童へ向かう途中の道をふたりで並んで歩くのには少し慣れてきたからすんなり聞けたのかな。


「あ、昼の時の?」

「うん。なんか、普段本気で笑ってるひとって作り笑いしてるとすぐにわかるね」

「ははっ。それ俳優失格じゃんね」


また余計なことを言ってしまったらしい。返事を聞いて、思わず首を横に振る。

そういうつもりじゃなかった。わたしって、本当に、人の気持ちがわからないやつだ。



「ごめん、わたしの言いかたが悪かったかもしれないけど…それは、ちがうんでしょ。このまえ見た映画、ちゃんと演技できてた。演技っていうより、役そのものっていうか…うまくいえないけど」


ふみとの演技をたくさん見てきたわけじゃないからフォローしづらい。

だけど、普段のふみと通りというか、むしろ普段のふみとはスクリーンの中にいなくて。役名しか当てはまらないような演技だった、と思う。


「そう見えたならよかった」

「え?」

「恋愛ものね、もちろん嫌じゃねーよ。仕事選べる立場でもないし、オーディション受からせてもらったり、オファーが来るだけでありがたい。けど、なんか、イメージみたいなものがあるんだって。推理ものとか、たとえば犯罪者の役とか、医療系とか歴史ものとか、やる機会もらえなくて」


イメージ、なんて似合わないような言葉が、なぜかしっくりきた。

あっこや紗依、新田くんの反応を見ると、そんな感じだ。


「だから出演作品はだいたい恋愛もの。恋愛ものって言っても描写はキスまでのな。今制服着てんのにおかしいかもしれないけど、時々、26にもなって制服着て学園ものやってるとこれで合ってるのかわからなくなったりするよ」