世界でいちばん 不本意な「好き」



「プレッシャーなんて感じてなんぼだよ。むしろそれがちからになってると思う」


のん気なせりふだな、と思う。

ふたりの口ぶり的に、久野史都が抜けたピカロはわりと危ういんじゃないのかな。知らないからわからないけれど。


それなのに澄んだ瞳は今も学校ではなく遠くの世界にいるひとの目みたいだ。


「そうかなあ。言っていいかわからないけど…エマくんは特に史都がいなくて困ってない?」

「ツインセンターがピカロの売りだもんね。シンメで仲良しだし…」


ツイン…? シンメ…?

聞き慣れない文言にショーマと顔を合わせる。というか、寧音と食べてくればいいのに。


「大丈夫だよ。たったひとりやふたりのちからでやってきたわけじゃない。ピカロを信じていっぱい楽しんできてよ」


曇りひとつない言葉に、不安を浮かべていたファンの表情はみるみる明るくなっていく。


これは、たぶんあっこのノート行きだな。

本人がここにいなかったらどうなってたんだろう。きっといろんな場所で、いろんな人たちがこういう話題を常にしているんだと思う。そういう世界のひと。



「いつのやつ当たったの?」

「8月!近いホールのが当たったよ!」

「よかった。転売もこれだけされてるなら復活やるんじゃないかな」

「だよねえ!よかったあ…転売ヤー撲滅してほしー!買っちゃう人絶対いるもん!」

「ねー」

「なー」


10万の値が付けられた転売チケットでさえ手に入れたい人がいるらしい。

そんなグループのひとりと、こんなにのんびりお弁当を分け合って食べている、なんて、おかしな話だ。