世界でいちばん 不本意な「好き」



関わっちゃいけないとわかってるし、意識もしている。

だけどへんに避ければしつこい追撃を食らうこともわかっているからどうしようもない。


隣の席になってしまったが故。そうじゃなければしゃべる仲にすらならなかったんじゃないかな。

たとえばこのひとの隣が穂菜美ちゃんだったら、穂菜美ちゃんと仲良くなっていたかもしれない。
ほかの人でも、きっと持ち前のしつこさでなんとかなっていたんじゃないかな。今ならそう思う。


とにかくわたしじゃなきゃいけない理由はなかったはず。それなのに神さまはいじわるだ。



「ピカロのコンサートのチケット、10公演申し込んで当たったの1公演だった……」

「あたしも…つまりあたしたちは2回行けるってことだけど年々倍率上がってるよね。全部落ちた人もたくさんいるっぽい」

「うーわー…あ、みて、高額転売されてる…ハイ通報。バシバシ通報。復活当選ありますように…!」

「ちょっと待って、10公演も申し込んだの?全部当たっちゃったらどうしてたの?」

「もちろん行くよ?そんな幸せ、妄想すらしたことないけどね~」


ピカロってそんなにすごいの…?こわいんだけど。


ごはんも食べずに携帯の液晶画面とにらめっこする紗依とあっこの姿を見て驚愕。

ピカロの人気さにもふたりの本気度にもわりとどん引きしてる。


「史都がいないツアーかあ…どうなるんだろうね」

「ね。史都がいないからって人気落とすわけにいかないってファンははりきってるから、それがプレッシャーになってなきゃいいなあ」


目の前に当の本人がいることはもうふたりの中ではナイことになってるらしい。

久野ふみと=久野史都、ではなく、ただの久野ふみと。そうでなきゃ正気を失うよ!って今日も体育の時間に熱弁された。